こころの定期便 ~2025.7.28~
「職場に戻るなんて無理」…そう思っても、当然のことです
・復職に向けて体調を整えてきて、元気になったかなと思っていたが、復職のプロセスになって、急に不安になって、休職直後のような不調に陥ってしまった
・通勤訓練をしようと会社に近づいたら動悸がして、とても復職できないんじゃないかと思ってしまった
このようにおっしゃる方は数多くおられます。
日々怒鳴られるなど激しいハラスメントを受けていたようなケースでは、職場のことを考えるだけで、急に不安になってしまう、眠れなくなる、涙が出てくると言ったことがよくあります。せっかく復職に向けて順調に体調が良くなってきていたのに、いざ会社のことを考えるだけでひどく調子を崩してしまうということがよくあるのです。
これはやる気の問題ではなく、人間が自分を守るために自然に持っている防御反応です。同じような場面で同じようなことが起きる確率が高いのでは、と脳が勝手に判断し、似たような場面で先んじてそのような症状を呈することで、そのような場所から身を遠ざけるようにしているのかも知れません。やる気がないわけではなく、心と体があなたを守ろうとしている自然な反応です。まずはそのことを、ご自身でも受け止めてあげてください。
トラウマ反応としての「職場恐怖」
嫌な体験がフラッシュバックして精神症状(気分の落ち込み、不安、不眠)、身体症状(動悸、吐き気、頭痛など)が出たりするのは、心が傷ついているサインです。特に、ハラスメントのように「自分の尊厳を否定される体験」は、PTSDに近いストレス反応を引き起こすことがあります。そのため、「行かなきゃ」と思っても体が拒否反応を示すのは、ごく自然なことです。
ではどのようにしたらその恐怖心を減らすことが出来るでしょうか。
1 会社が安全な場所だと再度学習できるような体験をする
2 ハラスメントを受けたことで様々な精神症状、身体症状を呈することをPTSDに準じるものとしてPTSDに対する治療を行う
といったことが挙げられるでしょう。
1について、会社を危険な場所として脳が認識しているため、各種症状を呈するようになっているため、それを上書きすることで症状が軽減・改善する可能性があります。そのためには
・信頼できる人事担当者とやりとりを行う
・極力ハラスメントを行った担当者との接点を少なくするような異動を含めた環境調整を行なってもらう
・仲の良い会社の同僚と話したりする場面を増やす
と言ったことがプラスに働くかも知れません。
2について、PTSDに準じたものとしてPTSDの治療、つまりEMDR、認知処理療法、持続エクスポージャーなどを行うことがありうるかも知れません。当院では現在まだ安定的にそう言った治療を提供できる状況にはありませんが、ご自身で症状をコントロールしていただくための心理社会的な介入は行なっております。
転職は「自分を守る戦略」
これは最後の手段かも知れませんが、転職するという手も一つでしょう。
皆さんが受けたハラスメントの被害を蔑ろにするわけではありませんが、上記の1のような望ましい対応をしてくれる会社ばかりではありません。労基署、弁護士などに相談していただくことはもちろん適切な判断だと思いますが、それで必ず皆さんにとってポジティブな結果が出るとは限りません。少なくとも一定の時間がかかってしまうので、その間のキャリアがストップしてしまう、そして、ネガティブな感情で過ごす時間が増えてしまうことは事実であるように思います。
「ハラスメントを受けた私がなぜ退職しなければならないのか」と感じる方も多いでしょう。ただ、会社とやりとりして誠実な回答が得られない、労基署、弁護士などに相談するだけの時間的な余裕がないなどの場合には、転職することが今後の皆さんの未来にとって一番プラスになるのではと考えます。
会社を許せないことはもっともなことです。本当に辛かったと思いますし、「辛いなかよく頑張ったね」と自分のことを労いながら、今後の自分の人生にとってどういった選択が適切なのか、ご自身でも信頼できる方などに相談しながら、検討頂いてはいかがでしょうか。
まとめ
職場への恐怖は仕事のやる気の問題ではなく心の防衛反応です。
治療したり、会社とやりとりすることで自分の気持ちが落ち着いていくことを感じる方もいるでしょう。他方で、誠実でない会社だなと感じた場合には、あなたの人生を守るための選択を、自分を大切にしながら考えていきましょう。
将来の自分の幸せのために、日々ご自身を労わりながら過ごされてください。
それではまた次週のブログでお目にかかりましょう。今週も皆様にとってより良い1週間となりますように。