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「悪いとわかっているのに、なぜやってしまうの?」──ADHDの衝動性について

「悪いことだとわかっているのに、なぜやってしまうの?」

お子さんが友達を叩いてしまった、道路に飛び出してしまった、授業中に突然立ち上がってしまった。そんなとき、保護者の方も、先生も、そして本人も、「どうしてわかっているのにやってしまうの」と感じます。

でも実は、この問いの前提自体が、少し違うかもしれません。

 

「悪いとわかっているのに」は正確ではない

 

よく言われるのが、「良いこと・悪いことの判断ができない」という表現です。でも、ADHDのお子さんの多くは、良い・悪いの判断はできています

問題は、その判断が間に合わないことです。

通常、人は何かをする前に、ほんの一瞬「これをしていいか」を考えます。この”一瞬のブレーキ”が働くことで、衝動的な行動を思いとどまることができます。

ADHDの衝動性とは、判断できないのではなく、判断する前に体が動いてしまうということです。「叩いてはいけない」とわかっている。でも、その判断が出てくるより先に、手が出てしまっている。

 

衝動性を司るのは「前頭前野」

 

このブレーキの役割を担っているのが、脳の前頭前野と呼ばれる部位です。前頭前野は「実行機能」と呼ばれる高次の脳機能を担っており、計画を立てる、感情をコントロールする、そして衝動を抑制するという働きを持っています。

ADHDでは、この前頭前野の機能が定型発達と異なる形で働いており、とくにノルアドレナリンとドーパミンという神経伝達物質のバランスが関係しています。

つまり衝動性は、しつけや努力の問題ではなく、脳の神経回路の特性です。

 

「悪い子」ではなく、「ブレーキが間に合わない子」

 

主治医として、診察でつらくなる瞬間があります。

お子さん本人が「自分は悪い子だ」と感じていたり、周囲から「あの子は問題児だ」と見られていたりする場面です。

友達を叩いてしまったとき、お子さん自身も「やってしまった」と思っています。叩きたかったわけではないのに、止められなかった。それを繰り返すうちに、「自分はどうしようもない」という自己認識が積み重なっていきます。

でも、それは本人の意志や性格の問題ではありません。ブレーキが間に合わなかっただけです。

この違いは、本人にとっても、家族にとっても、とても大切な視点だと思っています。

 

衝動性は、「頑張る」だけでは改善しにくい

 

衝動性に対して、「気をつけなさい」「次はやめなさい」と繰り返し言っても、なかなか改善しないことがあります。

本人はすでに「やめよう」と思っています。でも、脳の神経回路的に、行動が先に出てしまう。これを意志の力だけで変えることは、とても難しいことです。

環境を整えること(刺激を減らす、声かけのタイミングを工夫するなど)は効果があります。でも、衝動性が強い場合──特に友達を叩いてしまう、道路に飛び出してしまう、危険な行動が繰り返されるような場合は、薬のサポートを検討することが大切です。

 

インチュニブという選択肢

 

衝動性に対して効果的な薬として、インチュニブ(一般名:グアンファシン)があります。

インチュニブは前頭前野のノルアドレナリン受容体(α2Aアドレナリン受容体)に働きかけ、前頭前野の機能を整えることで、衝動性・多動性・注意力を改善します。

インチュニブはどんな薬?

インチュニブの元となる成分(グアンファシン)は、もともと高血圧の治療薬として使われていた薬です。いわゆる「精神科の薬」「脳に作用する強い薬」というイメージとは少し異なります。

コンサータなどの刺激薬(スティミュラント)とは作用機序が違い、依存性もなく、「お薬を飲んでいる感覚」が少ない薬でもあります。

「精神科の薬を飲ませることへの抵抗」が強い保護者の方にとって、比較的受け入れやすい薬のひとつと言えるかもしれません。

コンサータとの違いは?

インチュニブ コンサータ
主な作用 前頭前野のノルアドレナリン系 ドーパミン・ノルアドレナリン系全般
衝動性・多動への効果 特に有効 有効
不注意への効果 中程度 高い
食欲への影響 ほとんどなし 低下することがある
眠気 飲み始めに出ることがある ほとんどなし
依存性 なし なし(日本では管理が厳格)

衝動性・多動が前面に出ているお子さんには、インチュニブが特に有効なケースがあります。また、コンサータと併用することもあります。

副作用について

主な副作用は、眠気・立ちくらみ・めまいなどです。多くの場合は数週間で落ち着きます。もともと降圧薬に近い成分であるため、精神科の薬に対してイメージされるような強い副作用(依存・人格変化など)はありません。定期的に心電図の確認を行いながら使っていきます。

 

まとめ

  • 衝動性とは「悪いとわかっているのにやってしまう」のではなく、「判断が間に合う前に体が動いてしまう」こと
  • これは脳の前頭前野の特性によるもので、しつけや努力だけでは改善しにくい
  • 友達を叩いてしまう、危険な飛び出しが続くなど、衝動性が生活に影響している場合はインチュニブの使用を検討する価値がある
  • インチュニブは降圧薬に近い成分の薬で、精神科の薬に対するイメージより副作用の心配は少ない

「最近衝動性が気になる」「叩いてしまうことが続いている」という場合は、診察でお気軽に相談してください。

 


当院(上尾の森診療所 上尾駅前分院)では、ADHDの衝動性・多動性に関するご相談をお受けしています。薬を使うかどうかも含めて、一緒に考えていきます。

上尾駅から徒歩2分、平日夜21時まで診療しています。

WEB予約・お電話でのご予約はトップページよりご確認ください。


上尾の森診療所 上尾駅前分院 / 埼玉県上尾市宮本町3-2 / TEL: 048-783-2512 診療時間:平日13:00〜21:00(最終受付20:30)/ 土曜9:00〜17:00

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「悪いとわかっているのに、なぜやってしまうの?」──ADHDの衝動性について

「悪いことだとわかっているのに、なぜやってしまうの?」

お子さんが友達を叩いてしまった、道路に飛び出してしまった、授業中に突然立ち上がってしまった。そんなとき、保護者の方も、先生も、そして本人も、「どうしてわかっているのにやってしまうの」と感じます。

でも実は、この問いの前提自体が、少し違うかもしれません。

 

「悪いとわかっているのに」は正確ではない

 

よく言われるのが、「良いこと・悪いことの判断ができない」という表現です。でも、ADHDのお子さんの多くは、良い・悪いの判断はできています

問題は、その判断が間に合わないことです。

通常、人は何かをする前に、ほんの一瞬「これをしていいか」を考えます。この”一瞬のブレーキ”が働くことで、衝動的な行動を思いとどまることができます。

ADHDの衝動性とは、判断できないのではなく、判断する前に体が動いてしまうということです。「叩いてはいけない」とわかっている。でも、その判断が出てくるより先に、手が出てしまっている。

 

衝動性を司るのは「前頭前野」

 

このブレーキの役割を担っているのが、脳の前頭前野と呼ばれる部位です。前頭前野は「実行機能」と呼ばれる高次の脳機能を担っており、計画を立てる、感情をコントロールする、そして衝動を抑制するという働きを持っています。

ADHDでは、この前頭前野の機能が定型発達と異なる形で働いており、とくにノルアドレナリンとドーパミンという神経伝達物質のバランスが関係しています。

つまり衝動性は、しつけや努力の問題ではなく、脳の神経回路の特性です。

 

「悪い子」ではなく、「ブレーキが間に合わない子」

 

主治医として、診察でつらくなる瞬間があります。

お子さん本人が「自分は悪い子だ」と感じていたり、周囲から「あの子は問題児だ」と見られていたりする場面です。

友達を叩いてしまったとき、お子さん自身も「やってしまった」と思っています。叩きたかったわけではないのに、止められなかった。それを繰り返すうちに、「自分はどうしようもない」という自己認識が積み重なっていきます。

でも、それは本人の意志や性格の問題ではありません。ブレーキが間に合わなかっただけです。

この違いは、本人にとっても、家族にとっても、とても大切な視点だと思っています。

 

衝動性は、「頑張る」だけでは改善しにくい

 

衝動性に対して、「気をつけなさい」「次はやめなさい」と繰り返し言っても、なかなか改善しないことがあります。

本人はすでに「やめよう」と思っています。でも、脳の神経回路的に、行動が先に出てしまう。これを意志の力だけで変えることは、とても難しいことです。

環境を整えること(刺激を減らす、声かけのタイミングを工夫するなど)は効果があります。でも、衝動性が強い場合──特に友達を叩いてしまう、道路に飛び出してしまう、危険な行動が繰り返されるような場合は、薬のサポートを検討することが大切です。

 

インチュニブという選択肢

 

衝動性に対して効果的な薬として、インチュニブ(一般名:グアンファシン)があります。

インチュニブは前頭前野のノルアドレナリン受容体(α2Aアドレナリン受容体)に働きかけ、前頭前野の機能を整えることで、衝動性・多動性・注意力を改善します。

インチュニブはどんな薬?

インチュニブの元となる成分(グアンファシン)は、もともと高血圧の治療薬として使われていた薬です。いわゆる「精神科の薬」「脳に作用する強い薬」というイメージとは少し異なります。

コンサータなどの刺激薬(スティミュラント)とは作用機序が違い、依存性もなく、「お薬を飲んでいる感覚」が少ない薬でもあります。

「精神科の薬を飲ませることへの抵抗」が強い保護者の方にとって、比較的受け入れやすい薬のひとつと言えるかもしれません。

コンサータとの違いは?

インチュニブ コンサータ
主な作用 前頭前野のノルアドレナリン系 ドーパミン・ノルアドレナリン系全般
衝動性・多動への効果 特に有効 有効
不注意への効果 中程度 高い
食欲への影響 ほとんどなし 低下することがある
眠気 飲み始めに出ることがある ほとんどなし
依存性 なし なし(日本では管理が厳格)

衝動性・多動が前面に出ているお子さんには、インチュニブが特に有効なケースがあります。また、コンサータと併用することもあります。

副作用について

主な副作用は、眠気・立ちくらみ・めまいなどです。多くの場合は数週間で落ち着きます。もともと降圧薬に近い成分であるため、精神科の薬に対してイメージされるような強い副作用(依存・人格変化など)はありません。定期的に心電図の確認を行いながら使っていきます。

 

まとめ

「最近衝動性が気になる」「叩いてしまうことが続いている」という場合は、診察でお気軽に相談してください。

 


当院(上尾の森診療所 上尾駅前分院)では、ADHDの衝動性・多動性に関するご相談をお受けしています。薬を使うかどうかも含めて、一緒に考えていきます。

上尾駅から徒歩2分、平日夜21時まで診療しています。

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