ブログ

お友達とうまく遊べるようにするにはどうしたら良いでしょうかーソーシャルスキルとは何か、その高め方とはー

「お友だちとうまく遊べない」「すぐ手が出てしまう」「集団に入っていけない」「思ったことをそのまま言って場を凍らせてしまう」——。

お子さんの友だち関係について、こうした心配をお持ちの保護者の方は少なくありません。ソーシャルスキル(社会的なスキル)は、生まれつき決まっているものではなく、育てていける力です。今回は、子どものソーシャルスキルをどう伸ばしていけるか、エビデンスに基づいてお伝えします。

ソーシャルスキルとは何か

ソーシャルスキルとは、他者とうまく関わっていくための具体的な技術のことです。大きく分けると、自分の感情を扱う力、相手の気持ちを理解する力、実際に関わる力、そしてトラブルを解決する力、という4つの領域から成り立っています。

大切なのは、これらが「性格」ではなく「スキル(技術)」だという点です。技術である以上、適切な関わりや練習によって伸ばしていくことができます。

特にASD(自閉スペクトラム症)やADHDの特性があるお子さんは、こうしたスキルを自然に身につけることが苦手なことがあります。これは本人の努力不足ではなく、脳の特性によるものです。だからこそ、意識的に、その子に合った形で教えていくことが助けになります。

ソーシャルスキルは、将来にどう影響するのか

「勉強も大事だけれど、友だちづきあいのことでそこまで気にする必要があるの?」と思われるかもしれません。しかし、子どものころのソーシャルスキルが、その後の人生に長く影響することが、大規模な追跡研究で示されています。

アメリカで約750人の子どもを20年間追跡した研究(Jones, Greenberg & Crowley, American Journal of Public Health, 2015)では、幼稚園のときの先生による社会性の評価が、その後の人生の結果を予測することが示されました。社会性の評価が1点高いごとに、25歳までに大学を卒業する可能性が約2倍、フルタイムの仕事に就いている可能性が約46%高くなっていました。逆に評価が1点低いごとに、逮捕歴を持つ可能性や公的支援を必要とする可能性が高まっていました。注目すべきは、これが家庭環境や学力とは独立した関連だったことです。

さらに、幼少期の自己制御(我慢する力・衝動を抑える力)が、成人後の健康・経済状況・社会適応を予測することも、有名な追跡研究(Moffitt et al., PNAS, 2011)で示されています。自己制御はソーシャルスキルの土台となる力のひとつです。

これらの研究が示すのは、ソーシャルスキルが、その場でうまくやるための技術にとどまらず、学業・仕事・健康・メンタルの安定・良好な人間関係といった、人生全体の土台になりうるということです。良好な人間関係は、それ自体が心身の健康や幸福感を支えることも、数多くの研究で示されています。

ここで大切なのは、研究者自身も述べているように、これらはあくまで関連を示すものであって、「社会性さえあれば必ず成功する」という単純な因果を証明したものではない、という点です。それでも、多くの研究を総合すると、子どものソーシャルスキルを育てることが、その子の将来の可能性を広げる助けになることは、かなり確からしいと言えます。そして何より、ソーシャルスキルは学力と違い、大人になってからでも伸ばしていける力です。

ソーシャルスキルは「教えられる」のか

ソーシャルスキルを教える方法として、SST(ソーシャルスキルトレーニング)という体系的なアプローチがあります。これは、望ましい関わり方を具体的に教え、練習し、フィードバックする、という構造化された方法です。

ASDやADHDのお子さんを対象にした研究のメタ分析では、SSTによってソーシャルスキルが改善することが示されています。ただし、その効果は小〜中程度で、劇的にすべてが変わるというよりは、着実に少しずつ伸びていくものだと理解しておくことが大切です。

研究で繰り返し指摘されているのが、「訓練の場で身につけたスキルを、日常生活で実際に使えるか(般化)」という課題です。教室で練習できても、実際の友だち関係で使えなければ意味がありません。この般化を高めるうえで最も重要とされているのが、保護者や先生が関わることです。専門機関に任せきりにするのではなく、家庭での日々の関わりが、スキルを定着させる鍵になります。

家庭でできる関わり方

ここからは、研究で効果が示されている、家庭で実践できる具体的な方法を紹介します。特別な道具や専門知識は必要ありません。

① 親自身がお手本を見せる(モデリング)

子どもは、大人の振る舞いを見て学びます。これはソーシャルスキルの育ちにおいて、最も強力な要素のひとつです。

親が家族や他人に「ありがとう」「ごめんね」を自然に言う、イライラしたときに落ち着こうとする姿を見せる、困ったときに人に助けを求める、こうした日常の姿が、子どもにとって生きたお手本になります。「こうしなさい」と言葉で教えるより、親がやってみせる方がはるかに伝わります。

② 感情に名前をつけてあげる(感情コーチング)

子どもが感情をコントロールする力の土台は、まず「自分が今どんな気持ちなのか」を理解することです。

子どもが怒ったり泣いたりしているとき、「悔しかったんだね」「びっくりしたんだね」と、その気持ちに名前をつけて言葉にしてあげてください。感情を見える化することで、子どもは少しずつ自分の気持ちを認識し、扱えるようになっていきます。頭ごなしに「泣かないの」と止めるより、まず気持ちを受け止めることが先です。

親自身が軽いイライラを感じたときに「今ちょっとイライラしたけど、深呼吸するね」と口に出すのも、感情への対処法を教える良い機会になります。

③ 遊びの中で練習する

遊びは、子どもが安全な環境で「社会の練習」をする絶好の機会です。

ごっこ遊び・ボードゲーム・カードゲームなどは、順番を待つ、ルールを守る、勝ち負けを受け入れる、相手と協力する、といったスキルを自然に練習できます。特に、負けたときにどう気持ちを立て直すかは、遊びの中でこそ学べます。親も一緒に遊びながら、「悔しいけど、次がんばろう」といったモデルを示せます。

④ 場面を練習しておく(ロールプレイ)

苦手な場面を、事前に予行練習しておくのも有効です。

「仲間に入れて」と言う練習、「かして」「いやだ」を伝える練習、あやまる練習などを、家庭でおうちの人を相手にやってみます。実際の場面でいきなりやるより、一度練習しておくことで、子どもは自信を持って行動できるようになります。うまくできたら、具体的にほめてあげることが大切です。

⑤ できたところを具体的にほめる

「えらいね」という漠然としたほめ方より、「順番を待てたね」「お友だちに貸してあげられたね」と、何が良かったのかを具体的に伝えると、子どもは「これが良い関わり方なんだ」と理解しやすくなります。望ましい行動を見つけてほめることが、その行動を増やします。

生活リズムと環境を整えることも土台になる

意外に思われるかもしれませんが、規則正しい生活リズムも、ソーシャルスキルの土台を支えます。決まった時間の食事・睡眠・活動は、子どもに安心感と予測可能性を与え、感情が安定しやすくなります。感情が安定していないと、どんなスキルも発揮しにくくなります。

また、スマホやゲームなどの画面の時間が長すぎると、対面でのやりとりの機会が減ってしまいます。顔を合わせた会話・遊びの時間を意識的に確保することも、スキルを育てる環境として大切です。

日常のなかで楽しみながら伸ばす工夫

ここからは、厳密なエビデンスが確立しているわけではないものの、理にかなっていて、楽しみながら取り組める工夫をいくつか提案します。「やらせる」のではなく、子どもが興味を持ったものを一緒に楽しむ、という姿勢が大切です。

物語(本・漫画・映画・ドラマ)に触れる

物語には、登場人物の気持ちを想像したり、「自分だったらどうするか」を考えたりする機会がたくさんあります。他者の心を推し量る力(心の理論)や共感性との関連が研究でも示唆されています。大人を対象にした研究では、フィクションを読むことと他者理解の力の間に小さいながら関連があると報告されています。子どもでの因果関係はまだ十分に確立されていませんが、物語に親しむことには意味がありそうです。以前講演でご一緒させていただいた高名な先生はワンピースなどの漫画を通してソーシャルスキルを高めるよう外来で患者さんにお伝えしている、と話されていました。

漫画は、表情やしぐさから気持ちを読み取る練習としても優れています。特に、登場人物の心情が丁寧に描かれた作品は、感情の「教材」になります。映画やドラマも同様で、大切なのは、見せっぱなしにしないことです。「この子、今どんな気持ちだと思う?」「どうしてこうしたのかな?」と、見終わったあとに一緒に話すことで、学びが深まります。

ポイントは対話です。ただ読ませる・見せるだけより、「あなたならどうする?」と問いかけ、子どもの考えを聞くことで、他者の視点を考える力が育ちやすくなります。答えが正しいかを採点するのではなく、一緒に考える時間そのものが大切です。

演劇・ごっこ遊び・役を演じる体験

演劇や、役になりきる体験は、他者の立場を体で経験する機会になります。演劇活動が社会情動的な力によい影響を与えるという研究報告もあります。学校の演劇クラブや地域の演劇ワークショップ、あるいは家庭でのごっこ遊びでも構いません。

「もし自分が店員さんだったら」「もし相手の立場だったら」と、別の人物になってみることは、相手の気持ちを想像する力の実地訓練になります。恥ずかしがりな子には無理強いせず、まずは家庭で好きなキャラクターになりきる遊びから始めるのがよいでしょう。

協力する習い事・活動を選ぶ

チームスポーツ、合唱や合奏、ボーイスカウト・ガールスカウト、地域の子ども会など、人と協力する要素のある活動は、自然とソーシャルスキルを使う場になります。順番を待つ、役割を分担する、勝ち負けを受け入れる、仲間を応援する、といった経験が積めます。

ただし、大切なのは、その子に合っているかです。競争が苦手な子に激しい競技を無理にやらせると逆効果になることもあります。本人が楽しめて、少し背伸びすればできる、くらいの活動を一緒に選ぶのがコツです。勝敗より「参加して楽しむこと」を重視できる環境だと、安心して社会性を育めます。

これらはすべて 「こうすれば必ず伸びる」という保証があるものではありません。しかし、共通しているのは 「楽しみながら、他者と関わる経験を積む」という点です。無理にやらせると逆効果になるので、子どもの興味に寄り添い、一緒に楽しむことを大切にしてください。

専門的な支援を検討したほうがよい場合

家庭での関わりを続けても難しさが目立つ場合や、以下のような状況では、専門的な支援を検討する価値があります。

  • 集団の中で孤立している、いじめの対象になっている
  • 友だちとのトラブルが頻繁で、本人も苦しんでいる
  • 感情のコントロールが難しく、しばしば激しく崩れる
  • ASD・ADHDなどの特性があり、関わり方に専門的な視点が必要

医療機関や療育、専門的なSSTのプログラムでは、その子の特性に合わせた支援を受けられます。家庭での関わりと専門的な支援を組み合わせることで、スキルの定着が進みやすくなります。

まとめ

ソーシャルスキルは性格ではなく、育てていける技術です。子どものころの社会性は、学業・仕事・健康・人間関係といった将来の土台になりうることが、長期の追跡研究で示されています。SSTなどの体系的な方法には一定の効果があり、その効果を日常に定着させる鍵は、保護者の関わりです。家庭では、親がお手本を見せる、感情に名前をつける、遊びやロールプレイで練習する、できたことを具体的にほめる、といった方法が有効です。物語や演劇に親しむ、協力する活動に参加するなど、楽しみながら伸ばす工夫もあります。すぐに大きく変わるものではありませんが、日々の積み重ねが着実に子どもの力を育てます。難しさが目立つ場合は、専門的な支援も検討してみてください。

「うちの子の友だち関係が心配」「どう関わればいいかわからない」という方は、一人で抱え込まず、ご相談ください。お子さんの特性に合わせた関わり方を、一緒に考えます。


当院(上尾の森診療所 上尾駅前分院)では、お子さんの発達やソーシャルスキルに関するご相談をお受けしています。心理検査による特性の把握から、具体的な関わり方の助言まで、お子さんに合わせてサポートします。

上尾駅から徒歩2分、平日夜21時まで診療しています。WEB予約・お電話でのご予約はトップページよりご確認ください。

上尾駅徒歩2分

急患対応可能

TOPへ戻る

NEWS

お友達とうまく遊べるようにするにはどうしたら良いでしょうかーソーシャルスキルとは何か、その高め方とはー

「お友だちとうまく遊べない」「すぐ手が出てしまう」「集団に入っていけない」「思ったことをそのまま言って場を凍らせてしまう」——。

お子さんの友だち関係について、こうした心配をお持ちの保護者の方は少なくありません。ソーシャルスキル(社会的なスキル)は、生まれつき決まっているものではなく、育てていける力です。今回は、子どものソーシャルスキルをどう伸ばしていけるか、エビデンスに基づいてお伝えします。

ソーシャルスキルとは何か

ソーシャルスキルとは、他者とうまく関わっていくための具体的な技術のことです。大きく分けると、自分の感情を扱う力、相手の気持ちを理解する力、実際に関わる力、そしてトラブルを解決する力、という4つの領域から成り立っています。

大切なのは、これらが「性格」ではなく「スキル(技術)」だという点です。技術である以上、適切な関わりや練習によって伸ばしていくことができます。

特にASD(自閉スペクトラム症)やADHDの特性があるお子さんは、こうしたスキルを自然に身につけることが苦手なことがあります。これは本人の努力不足ではなく、脳の特性によるものです。だからこそ、意識的に、その子に合った形で教えていくことが助けになります。

ソーシャルスキルは、将来にどう影響するのか

「勉強も大事だけれど、友だちづきあいのことでそこまで気にする必要があるの?」と思われるかもしれません。しかし、子どものころのソーシャルスキルが、その後の人生に長く影響することが、大規模な追跡研究で示されています。

アメリカで約750人の子どもを20年間追跡した研究(Jones, Greenberg & Crowley, American Journal of Public Health, 2015)では、幼稚園のときの先生による社会性の評価が、その後の人生の結果を予測することが示されました。社会性の評価が1点高いごとに、25歳までに大学を卒業する可能性が約2倍、フルタイムの仕事に就いている可能性が約46%高くなっていました。逆に評価が1点低いごとに、逮捕歴を持つ可能性や公的支援を必要とする可能性が高まっていました。注目すべきは、これが家庭環境や学力とは独立した関連だったことです。

さらに、幼少期の自己制御(我慢する力・衝動を抑える力)が、成人後の健康・経済状況・社会適応を予測することも、有名な追跡研究(Moffitt et al., PNAS, 2011)で示されています。自己制御はソーシャルスキルの土台となる力のひとつです。

これらの研究が示すのは、ソーシャルスキルが、その場でうまくやるための技術にとどまらず、学業・仕事・健康・メンタルの安定・良好な人間関係といった、人生全体の土台になりうるということです。良好な人間関係は、それ自体が心身の健康や幸福感を支えることも、数多くの研究で示されています。

ここで大切なのは、研究者自身も述べているように、これらはあくまで関連を示すものであって、「社会性さえあれば必ず成功する」という単純な因果を証明したものではない、という点です。それでも、多くの研究を総合すると、子どものソーシャルスキルを育てることが、その子の将来の可能性を広げる助けになることは、かなり確からしいと言えます。そして何より、ソーシャルスキルは学力と違い、大人になってからでも伸ばしていける力です。

ソーシャルスキルは「教えられる」のか

ソーシャルスキルを教える方法として、SST(ソーシャルスキルトレーニング)という体系的なアプローチがあります。これは、望ましい関わり方を具体的に教え、練習し、フィードバックする、という構造化された方法です。

ASDやADHDのお子さんを対象にした研究のメタ分析では、SSTによってソーシャルスキルが改善することが示されています。ただし、その効果は小〜中程度で、劇的にすべてが変わるというよりは、着実に少しずつ伸びていくものだと理解しておくことが大切です。

研究で繰り返し指摘されているのが、「訓練の場で身につけたスキルを、日常生活で実際に使えるか(般化)」という課題です。教室で練習できても、実際の友だち関係で使えなければ意味がありません。この般化を高めるうえで最も重要とされているのが、保護者や先生が関わることです。専門機関に任せきりにするのではなく、家庭での日々の関わりが、スキルを定着させる鍵になります。

家庭でできる関わり方

ここからは、研究で効果が示されている、家庭で実践できる具体的な方法を紹介します。特別な道具や専門知識は必要ありません。

① 親自身がお手本を見せる(モデリング)

子どもは、大人の振る舞いを見て学びます。これはソーシャルスキルの育ちにおいて、最も強力な要素のひとつです。

親が家族や他人に「ありがとう」「ごめんね」を自然に言う、イライラしたときに落ち着こうとする姿を見せる、困ったときに人に助けを求める、こうした日常の姿が、子どもにとって生きたお手本になります。「こうしなさい」と言葉で教えるより、親がやってみせる方がはるかに伝わります。

② 感情に名前をつけてあげる(感情コーチング)

子どもが感情をコントロールする力の土台は、まず「自分が今どんな気持ちなのか」を理解することです。

子どもが怒ったり泣いたりしているとき、「悔しかったんだね」「びっくりしたんだね」と、その気持ちに名前をつけて言葉にしてあげてください。感情を見える化することで、子どもは少しずつ自分の気持ちを認識し、扱えるようになっていきます。頭ごなしに「泣かないの」と止めるより、まず気持ちを受け止めることが先です。

親自身が軽いイライラを感じたときに「今ちょっとイライラしたけど、深呼吸するね」と口に出すのも、感情への対処法を教える良い機会になります。

③ 遊びの中で練習する

遊びは、子どもが安全な環境で「社会の練習」をする絶好の機会です。

ごっこ遊び・ボードゲーム・カードゲームなどは、順番を待つ、ルールを守る、勝ち負けを受け入れる、相手と協力する、といったスキルを自然に練習できます。特に、負けたときにどう気持ちを立て直すかは、遊びの中でこそ学べます。親も一緒に遊びながら、「悔しいけど、次がんばろう」といったモデルを示せます。

④ 場面を練習しておく(ロールプレイ)

苦手な場面を、事前に予行練習しておくのも有効です。

「仲間に入れて」と言う練習、「かして」「いやだ」を伝える練習、あやまる練習などを、家庭でおうちの人を相手にやってみます。実際の場面でいきなりやるより、一度練習しておくことで、子どもは自信を持って行動できるようになります。うまくできたら、具体的にほめてあげることが大切です。

⑤ できたところを具体的にほめる

「えらいね」という漠然としたほめ方より、「順番を待てたね」「お友だちに貸してあげられたね」と、何が良かったのかを具体的に伝えると、子どもは「これが良い関わり方なんだ」と理解しやすくなります。望ましい行動を見つけてほめることが、その行動を増やします。

生活リズムと環境を整えることも土台になる

意外に思われるかもしれませんが、規則正しい生活リズムも、ソーシャルスキルの土台を支えます。決まった時間の食事・睡眠・活動は、子どもに安心感と予測可能性を与え、感情が安定しやすくなります。感情が安定していないと、どんなスキルも発揮しにくくなります。

また、スマホやゲームなどの画面の時間が長すぎると、対面でのやりとりの機会が減ってしまいます。顔を合わせた会話・遊びの時間を意識的に確保することも、スキルを育てる環境として大切です。

日常のなかで楽しみながら伸ばす工夫

ここからは、厳密なエビデンスが確立しているわけではないものの、理にかなっていて、楽しみながら取り組める工夫をいくつか提案します。「やらせる」のではなく、子どもが興味を持ったものを一緒に楽しむ、という姿勢が大切です。

物語(本・漫画・映画・ドラマ)に触れる

物語には、登場人物の気持ちを想像したり、「自分だったらどうするか」を考えたりする機会がたくさんあります。他者の心を推し量る力(心の理論)や共感性との関連が研究でも示唆されています。大人を対象にした研究では、フィクションを読むことと他者理解の力の間に小さいながら関連があると報告されています。子どもでの因果関係はまだ十分に確立されていませんが、物語に親しむことには意味がありそうです。以前講演でご一緒させていただいた高名な先生はワンピースなどの漫画を通してソーシャルスキルを高めるよう外来で患者さんにお伝えしている、と話されていました。

漫画は、表情やしぐさから気持ちを読み取る練習としても優れています。特に、登場人物の心情が丁寧に描かれた作品は、感情の「教材」になります。映画やドラマも同様で、大切なのは、見せっぱなしにしないことです。「この子、今どんな気持ちだと思う?」「どうしてこうしたのかな?」と、見終わったあとに一緒に話すことで、学びが深まります。

ポイントは対話です。ただ読ませる・見せるだけより、「あなたならどうする?」と問いかけ、子どもの考えを聞くことで、他者の視点を考える力が育ちやすくなります。答えが正しいかを採点するのではなく、一緒に考える時間そのものが大切です。

演劇・ごっこ遊び・役を演じる体験

演劇や、役になりきる体験は、他者の立場を体で経験する機会になります。演劇活動が社会情動的な力によい影響を与えるという研究報告もあります。学校の演劇クラブや地域の演劇ワークショップ、あるいは家庭でのごっこ遊びでも構いません。

「もし自分が店員さんだったら」「もし相手の立場だったら」と、別の人物になってみることは、相手の気持ちを想像する力の実地訓練になります。恥ずかしがりな子には無理強いせず、まずは家庭で好きなキャラクターになりきる遊びから始めるのがよいでしょう。

協力する習い事・活動を選ぶ

チームスポーツ、合唱や合奏、ボーイスカウト・ガールスカウト、地域の子ども会など、人と協力する要素のある活動は、自然とソーシャルスキルを使う場になります。順番を待つ、役割を分担する、勝ち負けを受け入れる、仲間を応援する、といった経験が積めます。

ただし、大切なのは、その子に合っているかです。競争が苦手な子に激しい競技を無理にやらせると逆効果になることもあります。本人が楽しめて、少し背伸びすればできる、くらいの活動を一緒に選ぶのがコツです。勝敗より「参加して楽しむこと」を重視できる環境だと、安心して社会性を育めます。

これらはすべて 「こうすれば必ず伸びる」という保証があるものではありません。しかし、共通しているのは 「楽しみながら、他者と関わる経験を積む」という点です。無理にやらせると逆効果になるので、子どもの興味に寄り添い、一緒に楽しむことを大切にしてください。

専門的な支援を検討したほうがよい場合

家庭での関わりを続けても難しさが目立つ場合や、以下のような状況では、専門的な支援を検討する価値があります。

医療機関や療育、専門的なSSTのプログラムでは、その子の特性に合わせた支援を受けられます。家庭での関わりと専門的な支援を組み合わせることで、スキルの定着が進みやすくなります。

まとめ

ソーシャルスキルは性格ではなく、育てていける技術です。子どものころの社会性は、学業・仕事・健康・人間関係といった将来の土台になりうることが、長期の追跡研究で示されています。SSTなどの体系的な方法には一定の効果があり、その効果を日常に定着させる鍵は、保護者の関わりです。家庭では、親がお手本を見せる、感情に名前をつける、遊びやロールプレイで練習する、できたことを具体的にほめる、といった方法が有効です。物語や演劇に親しむ、協力する活動に参加するなど、楽しみながら伸ばす工夫もあります。すぐに大きく変わるものではありませんが、日々の積み重ねが着実に子どもの力を育てます。難しさが目立つ場合は、専門的な支援も検討してみてください。

「うちの子の友だち関係が心配」「どう関わればいいかわからない」という方は、一人で抱え込まず、ご相談ください。お子さんの特性に合わせた関わり方を、一緒に考えます。


当院(上尾の森診療所 上尾駅前分院)では、お子さんの発達やソーシャルスキルに関するご相談をお受けしています。心理検査による特性の把握から、具体的な関わり方の助言まで、お子さんに合わせてサポートします。

上尾駅から徒歩2分、平日夜21時まで診療しています。WEB予約・お電話でのご予約はトップページよりご確認ください。