「毎年、秋の終わりから冬にかけて気分が沈む」「冬になると、いくら寝ても眠い」「甘いものが無性に欲しくなって、体重が増える」──。こうした変化が、毎年同じ季節にくり返されることはありませんか。
季節の変わり目に気分が変わること自体は、誰にでもあります。ただ、冬になるたびに生活に支障が出るほど落ち込む場合は、「季節性のうつ(冬季うつ)」の可能性があります。今回は、季節性のうつの特徴と、日照時間が短くなるこの時期にできることを、研究をもとにお伝えします。
先に結論
季節性のうつとは、特定の季節にうつ症状をくり返す経過を指します。多いのは、秋から冬に調子を崩し、春に軽くなる冬型で、寝すぎる、食欲が増える、体重が増えるといった症状が目立つこともあります。
日本の一部の調査では、欧米の報告より低い割合が示されていますが、日照時間との関係も報告されています。朝の光を浴びる、朝に外を歩く、起きる時間をそろえるといった工夫が役立ちます。
治療としては、光療法の効果が複数の研究で確認されています。認知行動療法と光療法を比べた研究では、治療後最初の冬の再発率は同程度で、2回目の冬には認知行動療法のグループで再発が少なくなりました。
季節性のうつとは、特定の季節にうつ症状をくり返す経過を指します。冬型では、秋から冬に調子を崩し、春に軽くなることが多く、寝すぎや食欲の増加が目立つこともあります。頻度は低いものの、夏に調子を崩す「夏型」もあります。うつ病や双極性障害で、こうした季節に沿った気分の波がみられることがあります。
アメリカ国立精神衛生研究所(NIMH)の解説では、季節に沿ったパターンが少なくとも2年続けてみられることが、診断のひとつの条件とされています。一度の冬だけで判断するのではなく、毎年の経過を振り返ることが大切です。ただし、生活に支障がある場合は、今年初めてでもご相談ください。
冬型にみられやすい症状
気分の落ち込みや、何をしても楽しめない、疲れやすいといった症状は、通常のうつ病と共通しています。そのうえで、冬型では次のような症状がみられることがあります。
冬型では、こうした寝すぎや食欲の増加が目立つことがあります。一方で、眠れない、食欲が落ちるといった症状が中心になる方もいます。季節性のうつは女性に多く、若い大人の時期に始まることが多いとされています。
季節性のうつは、北の地域ほど多い傾向があります。2000年に欧米などの研究をまとめた報告では、調査によって0%から9.7%と幅があり、緯度の高い地域ほど多くみられました。
日本では、1995年に報告された名古屋の公務員1,276人の質問票調査で、冬型の季節性のうつにあたる人は0.86%と推定されました。研究者は、日本でも季節による気分の変化は起こるものの、欧米より頻度は低く、症状の出方も異なると述べています。
また、1993年に報告された全国53の大学病院の調査では、うつ状態で受診した5,265人のうち46人(約0.9%)が季節性のうつにあたりました。この調査では、緯度よりも日照時間の長さのほうが、季節性のうつの多さと関係していました。寝すぎや食べすぎといった冬型らしい症状がみられた方は2〜3割にとどまり、典型的な症状がなくても、季節に沿って落ち込みをくり返す方がいることが分かります。
冬に気分が沈む理由は、まだすべてが分かっているわけではありませんが、日照時間が短くなることで、体内時計のリズムがずれることが関わっていると考えられています。朝に浴びる光は、体内時計を整え、眠りと目覚めのリズムを保つ働きがあります。冬は日の出が遅く、外に出る時間も減るため、この働きが弱まりやすくなります。
季節性のうつは、光と生活のリズムが深く関わっています。日常の中で取り入れやすい工夫をご紹介します。
① 起きたら、まず光を浴びる
朝起きたら、すぐにカーテンを開けて、外の光を部屋に入れます。窓際で朝食をとるのもよい方法です。曇りの日でも、屋外の光は室内の照明よりずっと明るく、体内時計を整える助けになります。
② 朝のうちに外を歩く
スイスで行われた小規模な研究では、冬季うつの方が毎朝1時間の屋外の散歩を1週間続けたところ、約半数で症状がおさまりました。弱い人工の光を浴びたグループでは、約4分の1でした。毎朝1時間を続けるのは難しくても、通勤や買い物のついでに、朝のうちに少し外を歩くことから始めてみてください。
③ 起きる時間をそろえる
冬は眠気が強くなり、休日に長く寝てしまいがちです。必要な睡眠時間を確保したうえで、平日と休日の起床時刻の差を小さくします。起きる時間が一定になると、朝の光を浴びるタイミングもそろい、体内時計が整いやすくなります。
④ 楽しめる予定を、先に入れておく
冬は家にこもりがちになり、楽しめることが減ると、さらに気分が沈むという悪循環が起こりやすくなります。人と会う、好きな場所に出かける、体を動かすなど、楽しめる予定を前もって入れておきます。季節性のうつのための認知行動療法でも、こうした予定を意識的に増やすことが、治療の中心のひとつになっています。
取り入れやすいこと
まずは、起きたらすぐにカーテンを開けることから始めてみてください。慣れてきたら、通勤や買い物のついでに、朝のうちに少し外を歩きます。たとえば10分ほどから始めると、続けやすくなります。
全部を一度に取り入れる必要はありません。秋から冬にかけて調子を崩しやすい方は、気分が沈み始める前の時期から、朝の過ごし方を整えておくのもひとつの方法です。
生活の工夫だけでは気分の落ち込みがおさまらない場合や、仕事や家事に支障が出ている場合は、治療の対象になります。
光療法
光療法は、専用の機器を使って、毎朝一定の時間、強い光を浴びる治療です。19の研究をまとめた解析では、光療法を受けたグループは、弱い光などの対照条件と比べて、うつの症状がより改善し、治療に反応した人の割合も約1.4倍でした。ただし、ひとつひとつの研究の規模は小さく、さらに質の高い研究が必要とされています。
NIMHの解説では、1万ルクスの光を、主に朝に30〜45分浴びる方法が紹介されています。一方で、目の病気がある方や、光に過敏になるお薬を飲んでいる方は、注意が必要です。また、双極性障害(躁うつ病)の方では、気分が上がりすぎるきっかけになることもあります。ご自身で機器を購入される前に、診察でご相談ください。
認知行動療法
アメリカで、冬季うつの方177人を、冬季うつ向けに作られた認知行動療法のプログラムを受けるグループと、光療法を受けるグループに分けて比べた研究があります。治療の翌年の冬に再発した人の割合は、どちらも同じくらいでした(29%と25%)。しかし2年後の冬には、認知行動療法のグループのほうが再発が少なく(27%と46%)、効果が長く続く可能性が示されました。
薬物療法
症状が強い場合は、通常のうつ病と同じように、抗うつ薬を使うこともあります。なお、ビタミンDのサプリメントについては、効果があったという研究と、なかったという研究があり、はっきりしたことは分かっていません。
診察では、毎年いつ頃から調子を崩しやすいか、どのくらい生活に影響が出ているかをうかがいながら、生活の工夫と治療の組み合わせを一緒に考えていきます。
「冬だけのことだから」と、毎年がまんしている方も少なくありません。次のような状態が続いている場合は、ご相談ください。
最後の項目にあてはまる場合は、双極性障害の可能性もあり、治療の進め方が変わることがあります。季節による気分の波がある方は、落ち込む時期だけでなく、調子がよすぎる時期のことも、診察でお伝えください。
「消えてしまいたい」「死にたい」という気持ちがあるときは、早めにかかりつけの医療機関などへご相談ください。夜間や休日に緊急の精神科医療が必要な場合は、埼玉県精神科救急情報センター(048-723-8699)に相談できます。命に危険がある場合や、けが・過量服薬などで急いで体の治療が必要な場合は、119番へ連絡してください。
季節性のうつは、特定の季節にうつ症状をくり返す経過を指します。多い冬型では、秋から冬に調子を崩して春に軽くなり、寝すぎや食欲の増加が目立つこともあります。日本の一部の調査では欧米の報告より低い割合が示されていますが、日照時間との関係も報告されています。朝の光を浴びる、朝に外を歩く、起きる時間をそろえる、楽しめる予定を先に入れておくといった工夫が役立ちます。生活に支障が出ている場合は、光療法や認知行動療法、薬物療法などの治療があります。毎年同じ季節に調子を崩す方は、がまんを続けずにご相談ください。
当院(上尾の森診療所 上尾駅前分院)では、気分の落ち込みや不眠など、こころの不調に関するご相談をお受けしています。毎年冬になると調子を崩す、朝起きられないといったお悩みも、お気軽にご相談ください。
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