「寝る前に、昼間の失敗を何度も思い返してしまう」「あのとき、ああ言えばよかったと考え続けてしまう」「どうして自分はいつもこうなのか、と頭から離れない」──。こうした経験は、多くの方にあると思います。
同じことをぐるぐると考え続けてしまう状態を、心理学では「反芻(はんすう)思考」と呼びます。反芻思考は誰にでも起こるものですが、続くと気分の落ち込みや不眠につながりやすいことが分かっています。今回は、反芻思考の仕組みと、減らすためにできることを、研究をもとにお伝えします。
先に結論
反芻思考は、考えているようでいて、答えに近づかないまま同じところを回り続ける考え方です。反芻が強い人ほど、その後うつ病を発症しやすい傾向があると報告されています。
「考えないようにする」と力むより、「なぜ」を「どうすれば」に変える、考える時間を決める、体を動かして何かに没頭する、といった切り替えの工夫が役立ちます。
反芻が続いて生活に影響が出ている場合は、治療で減らしていくことができます。反芻に焦点を当てた心理療法やマインドフルネスの研究も進んでいます。
反芻思考とは、つらい出来事や落ち込んだ気分について、その原因や意味、これからどうなるかを、繰り返し考え続けることです。牛が食べたものを何度も口に戻してかむ様子にたとえて、こう呼ばれています。
反芻思考の特徴は、「なぜ」という問いが多いことです。「なぜあんなことを言ってしまったのか」「なぜ自分だけうまくいかないのか」と考えても、答えは出ず、気分はさらに落ち込んでいきます。
問題解決との違い
反芻思考は、本人には「真剣に考えている」「反省している」と感じられることが多いものです。ただ、問題を解決するための考え方とは、次のような違いがあります。
考え終わったあとに、「次にすること」がひとつでも決まっていれば問題解決、気分が重くなっただけなら反芻、というのがひとつの見分け方です。
心配との違い
似たものに「心配」があります。反芻思考が主に過去や今の出来事をくり返し考えるのに対し、心配は「もし〜になったらどうしよう」と、これから起こるかもしれないことを考え続けるものです。どちらも頭の中で同じ考えが回り続ける点は共通しており、気分の落ち込みや不安、不眠につながりやすいとされています。
反芻思考とうつ病の関係を調べた研究として、アメリカの地域住民約1,100人を1年間追跡した研究があります。この研究では、反芻しやすい人ほど、その後うつ病を発症しやすい傾向がみられました。反芻はうつ病の結果として起こるだけでなく、うつ病を起こしやすくする要因のひとつと考えられています。
また、気分が落ち込んでいるときに考えると、どうしても悲観的な結論に流れやすくなります。その結論がさらに気分を落とし、また考え続けるという悪循環が生まれます。寝床の中で考え続けると、寝つきが悪くなることにもつながります。
反芻思考は、「考えないようにしよう」と強く意識するほど、かえって頭から離れにくくなることがあります。止めようとするより、考え方や行動を切り替える工夫が役立ちます。
①「なぜ」を「どうすれば」に変える
同じことを考えていると気づいたら、問いを変えてみます。「なぜ失敗したのか」ではなく、「次に同じ場面になったら、何をするか」と考えます。答えは小さくて構いません。「明日、一言だけ謝る」「次は資料を前日に見直す」など、具体的な行動がひとつ決まれば、その考えはいったん終わりにします。
② 考える時間と場所を決める
一日のうちで、考えるための時間を15分ほど決めておきます。それ以外の時間に考えが浮かんだら、「あとで考える時間に回そう」とメモに書き、いったん脇に置きます。不安や心配に対する認知行動療法でも使われる工夫で、一日中考え続ける状態から抜け出す助けになります。考える時間は、寝る直前を避けて、夕方ごろに設定するのがおすすめです。
③ 気づいたら、体を動かす・何かに没頭する
反芻思考は、行動を止めて頭の中だけで考え続けているときに強まりやすいものです。反芻に気づいたら、席を立つ、散歩をする、手を動かす作業をするなど、体を使うことに切り替えます。
反芻に焦点を当てた心理療法では、反芻を「つらい状況を避けるための行動」のひとつとしてとらえ、行動を増やすことや、何かに夢中になっていたときの心の状態を思い出す練習を取り入れています。
④ 自然の中を歩く
小規模な実験ですが、自然の多い場所を90分歩いた人は、都市部を歩いた人と比べて反芻が少なくなり、反芻に関わる脳の部位の活動も低下したという報告があります。公園や川沿いなど、緑の多い場所を歩くことは、取り入れやすい方法のひとつです。
⑤ 寝床では考えない
寝床で考え続けてしまうときは、いったん寝床から出て、別の部屋で静かに過ごし、眠くなってから戻ります。不眠の認知行動療法でも使われる方法で、「寝床は眠る場所」という結びつきを取り戻すことにつながります。
⑥ 考えを「考え」として眺める
マインドフルネスでは、浮かんできた考えを無理に止めたり、正しいかどうかを判断したりせず、「いま、自分はまたこのことを考えている」と気づいて、呼吸などに注意を戻す練習をします。考えに巻き込まれるのではなく、少し離れたところから眺める感覚を育てることが目的です。
取り入れやすいこと
同じことを考えていると気づいたら、「次にすることはひとつ決まったか」を自分に聞いてみてください。決まっていれば、そこで考えるのを終わりにします。決まらないときは、メモに書いて「あとで考える時間」に回し、席を立って体を動かします。
全部を一度に取り入れる必要はありません。ご自身に合いそうなものをひとつ選んで、数日続けてみてください。
反芻思考が長く続き、気分の落ち込みや不眠が続いている場合は、治療の対象になります。
反芻に焦点を当てた認知行動療法
イギリスで行われた研究では、抗うつ薬を使ってもうつ症状が残っていた42人を、通常の治療だけを続けるグループと、通常の治療に反芻に焦点を当てた認知行動療法を加えるグループに分けて比べました。認知行動療法を加えたグループでは、反芻とうつ症状がより大きく減り、治療に反応した人の割合も多くみられました(81%と26%)。規模の小さい研究であり、今後さらに確認が必要ですが、反芻そのものを治療で減らせる可能性を示しています。
マインドフルネス認知療法
マインドフルネスを取り入れた認知療法の研究をまとめた解析(11研究)では、通常の治療と比べて、反芻が中程度に減ることが示されました。一方で、薬物療法やほかの認知行動療法と比べた場合には、はっきりした差はみられませんでした。マインドフルネスは、反芻を減らす選択肢のひとつと考えられます。
診察では、どんな場面で反芻が起こりやすいか、どのくらい続くかを一緒に整理し、日常の中で使える工夫や、必要な治療を考えていきます。
次のような状態が続いている場合は、ひとりで抱え込まずにご相談ください。
「消えてしまいたい」「死にたい」という気持ちがある場合は、早めにご相談ください。夜間や休日は、埼玉県精神科救急情報センター(048-723-8699)でもご相談を受け付けています。
反芻思考は、つらい出来事や気分について「なぜ」をくり返し考え続ける状態で、誰にでも起こります。ただ、反芻が強い人ほどうつ病を発症しやすい傾向があり、長く続くと気分の落ち込みや不眠につながります。「考えないようにする」より、「なぜ」を「どうすれば」に変える、考える時間を決める、体を動かして何かに没頭する、寝床では考えない、といった切り替えの工夫が役立ちます。反芻が続いて生活に影響が出ている場合は、反芻に焦点を当てた認知行動療法やマインドフルネスなど、治療で減らしていくこともできます。
当院(上尾の森診療所 上尾駅前分院)では、気分の落ち込みや不安、不眠など、こころの不調に関するご相談をお受けしています。考えごとが止まらない、眠れないといったお悩みも、お気軽にご相談ください。
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