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心理検査の結果を踏まえてその点数を高める方法はあるのでしょうか?

「検査の結果(IQや各指標)を上げる方法はありますか?」

お子さんが知能検査(WISCなど)を受けた後、保護者の方からよくいただく質問です。言語理解は読書で伸ばせそうだけれど、視空間・流動性推理・ワーキングメモリ・処理速度といった指標はどうすればいいのか——。今回はこの問いに、できる限り正直に、エビデンスに基づいてお答えします。

最初に大切なことをお伝えします
知能検査の各指標は「鍛えれば確実に上がる筋肉」のようなものではありません。「この訓練をすれば数値が上がる」とうたう商品やアプリは数多くありますが、科学的に効果が証明されているものはごくわずかです。まずはこの前提を共有させてください。

「ワーキングメモリを鍛える」ことはできるのか

市販の「脳トレ」やワーキングメモリ訓練アプリの多くは、「ワーキングメモリが鍛えられ、頭が良くなる」とうたっています。しかし、この点については大規模な検証が行われています。

87の研究・145の比較を統合した大規模メタ分析(Melby-Lervåg, Redick & Hulme, Perspectives on Psychological Science, 2016)では、ワーキングメモリ訓練について次のことが示されました。訓練した課題そのもの(およびよく似た課題)の成績は確かに向上する。しかし、知能・推理力・読解・算数といった「訓練していない別の能力」への波及効果(遠転移)については、信頼できる改善の証拠は見られなかった、という結論です。

わかりやすく言うと、「数字を覚える練習をすれば、その練習に近い課題は上手になります。しかし、それによって流動性推理や全般的な知的能力、読解や算数などの離れた能力まで広く伸びることは、現時点では一貫して示されていません」ということです。検査の点数だけを上げる訓練をしても、日常生活の能力が広く上がるわけではない、という点が重要です。

一部に「流動性知能が向上した」とする研究(Au et al., 2015)もあり、研究者間で議論は続いています。ただし効果があったとしても非常に小さく、研究の質(対照群の設定など)に左右されることがわかっています。少なくとも「市販の脳トレで頭が良くなる」と断言できる段階にはありません。

では、何が役に立つのか

「訓練で検査の数値だけを上げる」ことは難しい一方で、子どもの認知機能や実行機能(注意・自己制御・思考の切り替えなど)を全体的に育てる方法には、一定のエビデンスがあります。

① 有酸素運動・身体活動

運動は、検査の点数を直接上げる方法というより、注意・自己制御・思考の切り替えといった実行機能を支える介入として比較的エビデンスがあります。

とくにADHDの子ども・青年では、有酸素運動が抑制制御・ワーキングメモリ・認知的柔軟性を中〜大程度の効果量で改善することが複数のメタ分析で示されています(Wang et al., BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation, 2025ほか)。一般の子どもでも、運動が実行機能にプラスに働くことが総説レベルで示されています。

機序としては、脳由来神経栄養因子(BDNF)の増加や脳血流の改善などが関与する可能性が指摘されています。また、ただ走るだけより、ルールがあったり判断や切り替えが必要な運動(球技・武道・ダンスなど)の方が効果が高い可能性が示唆されています。

② 音楽訓練

楽器の練習などの音楽訓練も、実行機能への効果が報告されています。未就学児(3〜6歳)を対象としたメタ分析では、音楽訓練が抑制制御・ワーキングメモリ・認知的柔軟性に小〜中程度の改善を示しました(Frontiers in Psychology, 2025)。

ただし、効果が出やすい条件は一様ではありません。12週間以上という期間は比較的一貫した条件ですが、抑制制御では週3回以上・1回20〜30分、ワーキングメモリでは1回20〜30分、認知的柔軟性では週3回以上・40分超で改善が示される、といったように領域ごとに条件が異なります。また研究の質にはばらつきがあり、無作為化や割り付けの記述が不十分な研究も少なくありません。「音楽で必ずIQが上がる」とまでは言えませんが、楽しんで続けられる習い事として価値があります。

③ 意味のある活動・学校プログラム

実行機能の研究で知られるDiamond & Lingの大規模レビュー(Developmental Cognitive Neuroscience, 2016)では、84の研究を比較した結果、実行機能の改善に関して最も幅広い効果を示したのは、太極拳やテコンドーなどの武道・マインドフルネスの実践と、モンテッソーリ教育やTools of the Mindといった学校プログラムだったと報告されています。

これらに共通するのは、単純なコンピューター課題よりも、意味のある活動・対人関係・情動の関与を含む点です。こうしたプログラムには、自分の行動を振り返り調整する要素が含まれていることも特徴とされています。

なお、Diamond & Ling自身は「認知的な要素を伴わない単純な有酸素運動・筋トレは実行機能への効果が小さい」と述べており、運動の効果については研究者間で議論があります(前述のADHD児のメタ分析とは見解が分かれます)。この点はまだ結論が定まっていない領域です。

「言語理解」と読書の関係

知能検査の指標の中で、言語理解は読書や対話、語彙に触れる経験との関連が比較的しっかり示されている領域です。この点は、先ほどのワーキングメモリ訓練とは対照的です。

読書量(どれだけ活字に触れているか)と言語能力の関係を調べた研究は数多くあります。99の研究を統合した大規模メタ分析(Mol & Bus, Psychological Bulletin, 2011)では、読書量が口頭言語能力を説明する割合は、未就学児で12%、小学生で13%、中学生で19%、高校生で30%、大学・大学院生で34%と、年齢が上がるほど読書量が言語力に与える影響が大きくなることが示されました。

さらにCunningham & Stanovichの一連の研究では、読書量は、もともとの一般的な知的能力や音読スキルを統計的に取り除いた後でも、語彙・言語理解・一般知識を独立して予測することが繰り返し示されています(Cunningham & Stanovich, Journal of Educational Psychology, 1991ほか)。つまり「もともと賢いから語彙が多い」だけでは説明できない、読書そのものの効果がある、と考えられています。

ただし注意点もあります。これらは主に「読書量が多い子ほど言語力が高い」という相関関係を示した研究であり、「読書させれば必ず検査の点数が上がる」という因果関係を完全に証明したものではありません。とはいえ、幼児期には、親子で対話しながら絵本を読む「ダイアロジック・リーディング(対話型読み聞かせ)」が言語発達を改善するというRCT(ランダム化比較試験)のメタ分析もあり(表出語彙で効果量d≒0.59など)、早期の働きかけには因果的な効果も示唆されています。日常的に本を読む、保護者と豊かな会話をする、わからない言葉を一緒に調べるといった積み重ねが言語的な力の土台になることは、比較的確かなことと言えます。

大切な視点:検査の数値は「目的」ではない

知能検査の各指標は、お子さんの「得意・不得意のパターン」を知り、どう支援すれば力を発揮できるかを考えるための地図です。数値そのものを上げることが目的ではありません。むしろ「処理速度が低めだから、時間に余裕を持たせる」「ワーキングメモリが弱めだから、指示を一度に1つずつにする」といった環境の工夫の方が、お子さんの生活を直接楽にします。

Diamondらのレビューでも、実行機能は学業成績・健康・生活の質を、IQや社会経済的状況以上に予測することがあると述べられています。検査の数値を直接上げることより、子どもが安心して挑戦できる環境を整えること、得意を伸ばし苦手を支える工夫をすることの方が、長い目で見て子どもの力になります。

まとめ

「脳トレ」やワーキングメモリ訓練で検査の数値(IQや各指標)を直接上げられるという科学的根拠は、現時点では乏しいのが実情です。一方で、有酸素運動・音楽訓練・武道やマインドフルネス・意味のある学校プログラムには、認知機能や実行機能を全体的に育てる効果が一定示されています。言語理解については、読書量との関連がしっかり示されています。ただしこれらも「数値対策」ではなく、子どもの発達を支える日々の積み重ねとして取り組むことが大切です。検査結果は数値を競うものではなく、お子さんに合った支援を考えるための手がかりです。

「検査の結果をどう活かせばいいか」「うちの子に合った関わり方を知りたい」という方は、診察でお気軽にご相談ください。検査結果の見方も含めて、一緒に整理します。


当院(上尾の森診療所 上尾駅前分院)では、心理検査の実施・結果のフィードバック・お子さんに合った支援のご相談をお受けしています。検査の数値だけでなく、お子さんの生活がより楽になる関わり方を一緒に考えます。

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心理検査の結果を踏まえてその点数を高める方法はあるのでしょうか?

「検査の結果(IQや各指標)を上げる方法はありますか?」

お子さんが知能検査(WISCなど)を受けた後、保護者の方からよくいただく質問です。言語理解は読書で伸ばせそうだけれど、視空間・流動性推理・ワーキングメモリ・処理速度といった指標はどうすればいいのか——。今回はこの問いに、できる限り正直に、エビデンスに基づいてお答えします。

最初に大切なことをお伝えします
知能検査の各指標は「鍛えれば確実に上がる筋肉」のようなものではありません。「この訓練をすれば数値が上がる」とうたう商品やアプリは数多くありますが、科学的に効果が証明されているものはごくわずかです。まずはこの前提を共有させてください。

「ワーキングメモリを鍛える」ことはできるのか

市販の「脳トレ」やワーキングメモリ訓練アプリの多くは、「ワーキングメモリが鍛えられ、頭が良くなる」とうたっています。しかし、この点については大規模な検証が行われています。

87の研究・145の比較を統合した大規模メタ分析(Melby-Lervåg, Redick & Hulme, Perspectives on Psychological Science, 2016)では、ワーキングメモリ訓練について次のことが示されました。訓練した課題そのもの(およびよく似た課題)の成績は確かに向上する。しかし、知能・推理力・読解・算数といった「訓練していない別の能力」への波及効果(遠転移)については、信頼できる改善の証拠は見られなかった、という結論です。

わかりやすく言うと、「数字を覚える練習をすれば、その練習に近い課題は上手になります。しかし、それによって流動性推理や全般的な知的能力、読解や算数などの離れた能力まで広く伸びることは、現時点では一貫して示されていません」ということです。検査の点数だけを上げる訓練をしても、日常生活の能力が広く上がるわけではない、という点が重要です。

一部に「流動性知能が向上した」とする研究(Au et al., 2015)もあり、研究者間で議論は続いています。ただし効果があったとしても非常に小さく、研究の質(対照群の設定など)に左右されることがわかっています。少なくとも「市販の脳トレで頭が良くなる」と断言できる段階にはありません。

では、何が役に立つのか

「訓練で検査の数値だけを上げる」ことは難しい一方で、子どもの認知機能や実行機能(注意・自己制御・思考の切り替えなど)を全体的に育てる方法には、一定のエビデンスがあります。

① 有酸素運動・身体活動

運動は、検査の点数を直接上げる方法というより、注意・自己制御・思考の切り替えといった実行機能を支える介入として比較的エビデンスがあります。

とくにADHDの子ども・青年では、有酸素運動が抑制制御・ワーキングメモリ・認知的柔軟性を中〜大程度の効果量で改善することが複数のメタ分析で示されています(Wang et al., BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation, 2025ほか)。一般の子どもでも、運動が実行機能にプラスに働くことが総説レベルで示されています。

機序としては、脳由来神経栄養因子(BDNF)の増加や脳血流の改善などが関与する可能性が指摘されています。また、ただ走るだけより、ルールがあったり判断や切り替えが必要な運動(球技・武道・ダンスなど)の方が効果が高い可能性が示唆されています。

② 音楽訓練

楽器の練習などの音楽訓練も、実行機能への効果が報告されています。未就学児(3〜6歳)を対象としたメタ分析では、音楽訓練が抑制制御・ワーキングメモリ・認知的柔軟性に小〜中程度の改善を示しました(Frontiers in Psychology, 2025)。

ただし、効果が出やすい条件は一様ではありません。12週間以上という期間は比較的一貫した条件ですが、抑制制御では週3回以上・1回20〜30分、ワーキングメモリでは1回20〜30分、認知的柔軟性では週3回以上・40分超で改善が示される、といったように領域ごとに条件が異なります。また研究の質にはばらつきがあり、無作為化や割り付けの記述が不十分な研究も少なくありません。「音楽で必ずIQが上がる」とまでは言えませんが、楽しんで続けられる習い事として価値があります。

③ 意味のある活動・学校プログラム

実行機能の研究で知られるDiamond & Lingの大規模レビュー(Developmental Cognitive Neuroscience, 2016)では、84の研究を比較した結果、実行機能の改善に関して最も幅広い効果を示したのは、太極拳やテコンドーなどの武道・マインドフルネスの実践と、モンテッソーリ教育やTools of the Mindといった学校プログラムだったと報告されています。

これらに共通するのは、単純なコンピューター課題よりも、意味のある活動・対人関係・情動の関与を含む点です。こうしたプログラムには、自分の行動を振り返り調整する要素が含まれていることも特徴とされています。

なお、Diamond & Ling自身は「認知的な要素を伴わない単純な有酸素運動・筋トレは実行機能への効果が小さい」と述べており、運動の効果については研究者間で議論があります(前述のADHD児のメタ分析とは見解が分かれます)。この点はまだ結論が定まっていない領域です。

「言語理解」と読書の関係

知能検査の指標の中で、言語理解は読書や対話、語彙に触れる経験との関連が比較的しっかり示されている領域です。この点は、先ほどのワーキングメモリ訓練とは対照的です。

読書量(どれだけ活字に触れているか)と言語能力の関係を調べた研究は数多くあります。99の研究を統合した大規模メタ分析(Mol & Bus, Psychological Bulletin, 2011)では、読書量が口頭言語能力を説明する割合は、未就学児で12%、小学生で13%、中学生で19%、高校生で30%、大学・大学院生で34%と、年齢が上がるほど読書量が言語力に与える影響が大きくなることが示されました。

さらにCunningham & Stanovichの一連の研究では、読書量は、もともとの一般的な知的能力や音読スキルを統計的に取り除いた後でも、語彙・言語理解・一般知識を独立して予測することが繰り返し示されています(Cunningham & Stanovich, Journal of Educational Psychology, 1991ほか)。つまり「もともと賢いから語彙が多い」だけでは説明できない、読書そのものの効果がある、と考えられています。

ただし注意点もあります。これらは主に「読書量が多い子ほど言語力が高い」という相関関係を示した研究であり、「読書させれば必ず検査の点数が上がる」という因果関係を完全に証明したものではありません。とはいえ、幼児期には、親子で対話しながら絵本を読む「ダイアロジック・リーディング(対話型読み聞かせ)」が言語発達を改善するというRCT(ランダム化比較試験)のメタ分析もあり(表出語彙で効果量d≒0.59など)、早期の働きかけには因果的な効果も示唆されています。日常的に本を読む、保護者と豊かな会話をする、わからない言葉を一緒に調べるといった積み重ねが言語的な力の土台になることは、比較的確かなことと言えます。

大切な視点:検査の数値は「目的」ではない

知能検査の各指標は、お子さんの「得意・不得意のパターン」を知り、どう支援すれば力を発揮できるかを考えるための地図です。数値そのものを上げることが目的ではありません。むしろ「処理速度が低めだから、時間に余裕を持たせる」「ワーキングメモリが弱めだから、指示を一度に1つずつにする」といった環境の工夫の方が、お子さんの生活を直接楽にします。

Diamondらのレビューでも、実行機能は学業成績・健康・生活の質を、IQや社会経済的状況以上に予測することがあると述べられています。検査の数値を直接上げることより、子どもが安心して挑戦できる環境を整えること、得意を伸ばし苦手を支える工夫をすることの方が、長い目で見て子どもの力になります。

まとめ

「脳トレ」やワーキングメモリ訓練で検査の数値(IQや各指標)を直接上げられるという科学的根拠は、現時点では乏しいのが実情です。一方で、有酸素運動・音楽訓練・武道やマインドフルネス・意味のある学校プログラムには、認知機能や実行機能を全体的に育てる効果が一定示されています。言語理解については、読書量との関連がしっかり示されています。ただしこれらも「数値対策」ではなく、子どもの発達を支える日々の積み重ねとして取り組むことが大切です。検査結果は数値を競うものではなく、お子さんに合った支援を考えるための手がかりです。

「検査の結果をどう活かせばいいか」「うちの子に合った関わり方を知りたい」という方は、診察でお気軽にご相談ください。検査結果の見方も含めて、一緒に整理します。


当院(上尾の森診療所 上尾駅前分院)では、心理検査の実施・結果のフィードバック・お子さんに合った支援のご相談をお受けしています。検査の数値だけでなく、お子さんの生活がより楽になる関わり方を一緒に考えます。

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