「睡眠薬は一度飲んだらやめられなくなるのでは」「だんだん効かなくなって量が増えていくのでは」——。睡眠薬にこうしたイメージを持っている方は少なくありません。
実は、この数年で不眠症治療の選択肢は広がってきました。従来の「脳全体を眠らせるタイプ」に加えて、「覚醒を保つ仕組みを抑えるタイプ」が使われるようになってきています。今回は、その新しいタイプの睡眠薬を、2025年に登場した最新の薬「ボルズィ」を中心にご説明します。
睡眠薬には大きく2つのタイプがある
現在使われている睡眠薬は、作用の仕方から大きく2つに分けられます。
① 脳の活動を抑えて眠らせるタイプ(従来型)
ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系(マイスリー、ルネスタ、レンドルミンなど)と呼ばれる薬で、脳の活動を落ち着かせるGABAという物質の働きを強めることで、脳全体を鎮めて眠りを促します。効果はしっかりしていますが、長く使うと体が慣れて効きにくくなったり、やめるときに反動が出たりすることがあり、依存性が課題とされてきました。
② 覚醒を抑えて睡眠に移行しやすくするタイプ(オレキシン受容体拮抗薬)
近年、選択肢として広がっているのが、オレキシン受容体拮抗薬(DORA)です。
「オレキシン」は、脳を覚醒状態に保つための物質です。不眠症の方では、夜になってもこのオレキシンが働きすぎて、脳が「覚醒モード」から抜けられなくなっていることがあります。オレキシン受容体拮抗薬は、この覚醒を保つ仕組みを抑えることで、睡眠へ移行しやすくします。
オレキシン受容体拮抗薬は、脳全体を無理に抑え込むのではなく、「起きる仕組み」だけをやさしく抑えます。そのため、従来のベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系とは作用の仕方が異なり、依存や反跳性不眠(薬をやめたときに不眠が悪化すること)のリスクは低いと考えられています。現在、ベルソムラ(2014年)、デエビゴ(2020年)、クービビック(2024年)、そしてボルズィ(2025年)の4種類が使われています。
ただし、「依存性がまったくない」「ずっと飲み続けてよい」という意味ではありません。ボルズィも習慣性医薬品に分類されており、症状が改善した場合には継続の必要性を確認し、漫然と使い続けないことが大切です。
2025年登場の最新薬「ボルズィ」とは
ボルズィ(一般名:ボルノレキサント)は、2025年8月に承認され、同年11月に発売された最も新しいオレキシン受容体拮抗薬です。大正製薬が開発した、海外にはまだない「日本発」の睡眠薬です。
ボルズィの特徴のひとつは、この種類の薬の中で作用時間が短いことです。血液中の薬の濃度が半分になるまでの時間(半減期)が健康成人でおおむね約2時間と短いのが特徴です。
作用時間が短いことのメリットとして期待されるのが、翌朝への持ち越しが少ない可能性です。「睡眠薬を飲むと翌朝まで頭がぼんやりする」という経験がある方にとっては、検討する価値のある特徴です。ただし、眠気の残り方には個人差があり、「翌朝は必ず眠気が残らない」「運転しても大丈夫」という意味ではありません。添付文書上も、眠気・注意力や集中力の低下が起こる可能性があるとされており、眠気やふらつきがある場合は自動車の運転や危険を伴う作業を控える必要があります。
作用時間の特徴から、ボルズィは特に「寝つきが悪い(入眠障害)」タイプの不眠で候補になります。一方、夜中に何度も目が覚める「中途覚醒」が主な悩みの場合は、もう少し作用時間の長い薬(クービビックなど)の方が合うこともあります。どの薬が合うかは、不眠のタイプ・翌朝の予定・年齢・肝機能・併用薬によって変わります。
「悪夢が少ない」というのは本当か
オレキシン受容体拮抗薬には、共通して「夢を見やすくなる」「悪夢を見ることがある」という副作用が知られています。これは、この種類の薬がレム睡眠(夢を見る浅い眠り)を増やす傾向があるためと考えられています。
特に、作用時間の長いデエビゴ(レンボレキサント)では、翌朝の眠気とともに悪夢の報告がやや多いとされています。
ボルズィでも悪夢は副作用として報告されており、頻度はおおむね数%程度です(国内試験では、2週間投与の5mg群で0.5%、長期投与試験では5mg群1.1%・10mg群3.3%と報告されています)。理論上は、ボルズィは作用時間が短いため、夢を見るレム睡眠が多くなる明け方の時間帯には薬の効果がすでに薄れており、悪夢が比較的起きにくい可能性が考えられます。ただし、これは薬どうしを直接比べた試験で証明されたわけではなく、あくまで作用時間の違いから推測される特徴である点にはご注意ください。悪夢の感じ方には個人差もあります。
ボルズィの効果と使い方
不眠症の患者さん590名を対象にした臨床試験では、ボルズィを14日間使用したところ、寝つくまでの時間(主観的な睡眠潜時)がプラセボ(偽薬)と比べて有意に改善しました。また、この試験では、薬をやめたときに不眠がかえって悪化する 反跳性不眠 や、依存を示すような所見は認められませんでした。
使い方の基本は次の通りです。
- 通常、成人は1回5mgを就寝直前に服用(最大10mgまで)
- 2.5mg・5mg・10mgの3規格があり、5mgには割線(半分に割る線)があるため細かい調整がしやすい
- 効き始めが早めなので、必ず寝る直前に飲む
- 主な副作用は傾眠(日中の眠気、3%程度)で、ほかに悪夢・浮動性めまい・睡眠時麻痺(金縛り)などが報告されている
飲むときの注意点
ボルズィを使う上で、いくつか知っておいていただきたい注意点があります。
- 食事の直後は避ける:食事と一緒/食後すぐに飲むと、効果の出方が遅くなります。夕食から時間をあけて服用してください。
- アルコールと一緒に飲まない:お酒と併用すると作用が強く出すぎることがあります。
- グレープフルーツジュースを避ける:薬の効果が強まりすぎる可能性があります。
- 一部の薬とは併用できない:特定の抗真菌薬など(CYP3A4を強く阻害する薬)とは併用できません。服用中の薬は必ず医師に伝えてください。
- 肝機能によっては減量・使用不可:中等度の肝機能障害では減量、重度の肝機能障害では使用できません。
- まれに金縛り(睡眠麻痺)が起こることがある:気になる場合は医師にご相談ください。
なお、発売されて間もない薬のため、2026年10月末日までは1回に14日分までしか処方できないという制限があります(新薬に共通のルールです)。この間は、通院の間隔がやや短くなる点をご了承ください。
睡眠薬への「よくある不安」について
「睡眠薬=やめられなくなる怖い薬」というイメージは、主に従来型(ベンゾジアゼピン系)の薬に対するものです。オレキシン受容体拮抗薬は、そうした依存や反跳性不眠のリスクが低いと考えられており、性質の異なる薬です。ただし「まったく依存しない・ずっと飲み続けてよい」という意味ではなく、症状が改善したら継続の必要性を見直すことが大切です。いずれにしても、「怖いから」と眠れないのを我慢し続けることの方が心身にマイナスになることもあります。薬に頼るかどうかも含めて、まずは相談していただくのが良いと思います。
まとめ
睡眠薬には、従来型の「脳の活動を抑えて眠らせるタイプ」だけでなく、オレキシン受容体拮抗薬のように「覚醒を保つ仕組みを抑えるタイプ」もあります。ボルズィは2025年に発売された新しいオレキシン受容体拮抗薬で、半減期が短く、翌朝への持ち越しが少ない可能性が期待されています。作用時間が短いことから悪夢が比較的起きにくい可能性も考えられますが、これは推測の範囲です。一方で、眠気・悪夢・睡眠時麻痺などの副作用がないわけではなく、運転や併用薬には注意が必要です。どの睡眠薬が合うかは、不眠のタイプ・翌朝の予定・年齢・肝機能・併用薬によって変わるため、気になる症状があれば診察でご相談ください。
「眠れない日が続いている」「今の睡眠薬が合わない気がする」「翌朝の眠気がつらい」という方は、お気軽にご相談ください。睡眠の状態を伺いながら、その方に合った方法を一緒に考えます。
当院(上尾の森診療所 上尾駅前分院)では、不眠症の診断・治療のご相談をお受けしています。生活習慣の見直しから薬物療法まで、一人ひとりに合った不眠の治療をご提案します。
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