「夜になっても目が冴えて眠れない」「朝どうしても起きられない」「休みの日は昼まで寝てしまう」。
ADHDのお子さんや大人の方から、こうした睡眠の悩みをよく伺います。実はこれは偶然の重なりではありません。ADHDと睡眠には、体の仕組みのレベルでつながりがあることがわかってきています。今回は、ADHDと睡眠の関係について、エビデンスをもとにお伝えします。
ADHDのある子どもの25〜50%程度に、何らかの睡眠の問題がみられるとされています。大人でも、睡眠の悩みは一般の方より多いことが知られています。
「夜更かしは生活習慣の問題」「朝起きられないのは怠けている」と受け取られてしまうことがあります。しかしADHDのある方の睡眠の問題は、意志や努力だけの話ではなく、体の仕組みが関わっている場合があります。
① 体内時計が後ろにずれていることがある
ADHDと睡眠の関係を考えるうえで、重要な知見のひとつが体内時計(概日リズム)のずれです。
62の研究・ADHD患者4,462人を対象とした系統的レビューでは、ADHDが夜型の傾向(イブニングタイプ)や、睡眠開始の遅れ、体内時計の指標の後ろ倒しと一貫して関連することが示されました。
メラトニンは、暗くなったことを体に伝え、睡眠と覚醒のリズムを調整するシグナルとして働くホルモンです。研究では、このメラトニンの分泌が始まる時刻が、ADHDのある方では遅れていることが報告されています。近年のレビューでは、その遅れは子どもで約45分、大人で約90分とされています。
ただし、すべてのADHDの方にこの特徴があるわけではありません。こうした体内時計の遅れは一部の方にみられるもので、特に「夜になると元気になる」「休日は睡眠時間が大きく後ろにずれる」という方では、重要な要因になることがあります。
② 寝る時間になっても頭が切り替わりにくい
ADHDのある方からは、「布団に入ってから考えごとが次々浮かぶ」「夜になるとやりたいことが増える」「ひとつのことをやめられず寝るのが遅くなる」といった訴えもよく聞かれます。こうした認知的な覚醒や、活動の切り替えにくさも、入眠を妨げる要因になりえます。
③ 悪循環になりやすい
ADHDのある方は、夜になってようやく静かになり集中できるため、動画やゲーム、作業に没頭してしまいがちです。これがさらに就寝時刻を遅らせ、翌朝の不調につながります。
ソーシャル・ジェットラグ
平日と休日で睡眠の時刻が大きくずれる状態は「ソーシャル・ジェットラグ(社会的時差ぼけ)」と呼ばれます。ADHDのある子どもを対象にした研究では、このずれが大きいほど、認知機能の一部の成績が低いという関連が報告されています。休日に昼まで寝てしまうと月曜がつらくなるのは、体が時差ぼけの状態になっているためとも考えられます。
ADHDと睡眠の関係は一方通行ではなく、お互いに影響し合う関係にあります。
睡眠が足りないと、注意力・集中力が落ち、イライラしやすくなり、衝動性が高まります。子どもでは、睡眠不足や眠気が、不注意だけでなく落ち着きのなさや情緒の不安定さとして現れることもあります。つまり、睡眠不足そのものがADHDの症状を強めてしまうのです。
そのため、睡眠を整えることは、ADHDの治療や支援を考えるうえで重要な一部です。睡眠への取り組みによって、睡眠の質だけでなく、日中の行動や生活の状態が改善することがあります。
一方で、睡眠を整えるだけでADHDそのものが治るという意味ではありません。2026年に発表された成人ADHDの研究では、通常のADHD治療に睡眠治療を追加したところ、睡眠の質と疲労は改善しましたが、ADHD症状の追加的な改善は有意ではありませんでした。睡眠は大切な柱のひとつですが、それだけですべてが解決するわけではない、と捉えるのが正確です。
また、睡眠不足による不注意やイライラが、ADHDのように見えることもあります。診断の際に睡眠の状態を確認することが大切なのは、このためです。
ADHDのある方の睡眠の問題は、体内時計のずれだけとは限りません。次のような別の要因が隠れていることがあります。
特に注意したいのが睡眠時無呼吸です。不注意や落ち着きのなさが目立つとき、そのすべてをADHDそのものと考えず、いびき・口呼吸・睡眠中の呼吸停止がないかを確認することが大切です。睡眠の問題が改善することで、日中の様子が大きく変わることがあります。
ADHDの治療薬、特に中枢刺激薬(メチルフェニデートなど)は覚醒度を上げる作用があるため、寝つきまでの時間が長くなる、睡眠時間が短くなるといった影響が報告されています。
ただし、話はそう単純ではありません。日中の症状がコントロールされることで生活リズムが整い、かえって睡眠が改善する方もいます。薬の種類・量・製剤・服薬時刻などを調整することで改善できる場合がありますので、寝つきが悪くなったと感じたら、自己判断で中止せず主治医にご相談ください。
① 朝の光を浴びる
体内時計を前に戻すために重要なのが、朝の光です。起きたらカーテンを開け、できれば朝に屋外へ出て光を浴びましょう。夜に無理やり早く眠ろうとするより、まず起床時刻を整えて朝の光を取り入れるほうが、リズムの立て直しには効果的です。
ただし、睡眠時間を削ってまで早起きすることが目的ではありません。まずは十分な睡眠時間を確保できる生活を組み立てることが前提です。
② 夜の光と刺激を減らす
夜に強い光や明るい画面を見ることは、体内時計を後ろにずらす一因になります。それに加えて、動画・SNS・ゲームなどは内容そのものが刺激になり、「あと少し」が続いて就寝時刻を遅らせることがあります。
ADHDのある方にとって「見るのをやめる」のは意志の力では難しいことがあります。時間で自動的に切れる設定にする、寝室に持ち込まない、充電場所を別の部屋にするなど、環境の側で工夫するほうが現実的です。
③ 就寝前の手順を決めておく
入浴・歯みがき・着替えなど、寝る前の流れをいつも同じ順番にすると、脳が「これから眠る」と認識しやすくなります。子どもの場合は特に有効で、保護者向けの睡眠プログラムや行動的な介入によって、寝つきの悪さや夜間の目覚めが改善することが、複数の研究をまとめた解析で示されています。
④ 起床時刻をなるべく一定にする
休日に昼まで寝てしまうと、体内時計がさらに後ろにずれ、週明けがつらくなります。休日も平日と大きくずらさないことが大切です。
ただし、必要な睡眠時間を削ってまで早起きを続けるのではなく、まず平日にも十分な睡眠時間を確保できる生活を考えることが先です。
⑤ 1〜2週間、睡眠を記録してみる
寝床に入った時刻、実際に眠ったと思う時刻、起床時刻、昼寝、休日の睡眠、薬を飲んだ時刻などを簡単に記録すると、原因が見えやすくなります。「眠れない」と思っていても、実際には就寝時刻そのものが後ろにずれているだけ、という場合もあります。診察の際にも重要な情報になります。
⑥ 午後以降のカフェインを見直す
午後から夜にかけてのコーヒー・エナジードリンク・栄養ドリンクなどのカフェインも、入眠を遅らせることがあります。日中の眠気をカフェインで補い、その結果さらに夜眠れなくなる、という悪循環に陥っていないか確認してみてください。
生活の工夫だけでは改善が難しい場合、薬による治療が検討されることがあります。
日本では、メラトニン製剤(メラトベル)が「小児期の神経発達症に伴う入眠困難の改善」を効能・効果として承認されています。ADHDやASDのあるお子さんが対象で、体内時計に働きかけて自然な眠気を促す薬です。臨床試験では、寝つくまでの時間が短縮することが確認されています。
この薬は、添付文書でも「睡眠衛生指導や、可能な場合には行動療法的な治療を実施したうえで投与すること」とされています。つまり、生活の工夫を飛ばして薬だけで解決する薬ではありません。
また、対象は6〜15歳とされており、6歳未満や16歳以上での有効性・安全性は確立していません。大人の場合は、症状に応じて別の方法を検討することになります。
使用を始めた後も、開始3か月後を目安に効果と安全性を確認することとされており、漫然と続ける薬ではありません。
次のような場合は、一度ご相談ください。
なお、睡眠時無呼吸が疑われる場合の検査は当院では実施していないため、必要と判断される場合は検査が可能な医療機関をご紹介します。
ADHDでは睡眠の問題が起こりやすく、その背景はひとつではありません。ADHDのある方の一部では、夜型の傾向やメラトニン分泌時刻の遅れなど、体内時計の後ろ倒しがみられます。一方で、生活リズム、ADHDの特性、治療薬、不安、睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群などが関係している場合もあります。睡眠不足はADHDの症状を強めるため、睡眠を整えることはADHDの支援を考えるうえで重要な一部です(ただし、それだけでADHDが治るわけではありません)。朝の光を浴びる、夜の光と刺激を減らす、就寝前の手順を決める、起床時刻をなるべく一定にする、睡眠を記録してみる、といった工夫が基本になります。
「夜眠れない」「朝起きられない」でお困りの方は、お気軽にご相談ください。睡眠の状態も含めて、その方に合った方法を一緒に考えます。
当院(上尾の森診療所 上尾駅前分院)では、ADHDをはじめとする発達特性と、それに伴う睡眠のお悩みについてのご相談をお受けしています。お子さんから大人の方まで対応しています。
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